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空を飛ぶパラソル

 水蒸気を一パイに含んだ梅雨つゆ晴れの空から、白いまぶしい太陽が、パッと照り落ちて来る朝であった。
 ちょうど農繁期で、地方新聞の読者がズンズン減って行くばかりでなく、新聞記事だねの夏枯れ季節どきに入りかけた時分なので、私のいる福岡時報は勿論のこと、その他の各社とも何かしら読者を惹き付ける大記事は無いか……洪水おおみずは出ないか……炭坑は爆発しないか……どこかに特別記事とくだねは転がっていないか……との目たかの目になっていた。そんなようなタヨリナイ苛立たしい競争の圧迫を、編輯長と同じ程度に感じていた遊撃記者の私は、ツイこの頃、九大工学部に起ったチョットした事件を物にすべく、福岡市外筥崎町はこざきちょうの出外れに在る赤煉瓦れんがの正門を、ブラリブラリと這入はいりかけていたのであったが、あんまり暑いので、阿弥陀にしていた麦稈むぎわら帽子を冠り直しながら、何の気もなく背後うしろをふり帰ると、ハッとして立ち止まった。
 工学部の正門前は、広い道路を隔てて、二三里の南に在る若杉山のふもとまで、一面の水田になっていて、はてしもなくみなぎり輝く濁水にごりみずの中に、田植笠が数限りなく散らばっている。その田の中の畦道あぜみちを、眼の前の道路から一町ばかり向うの鉄道線路まで、パラソルを片手に捧げて、危なっかしい足取りで渡って行く一人の盛装の女がいる。
 そのパラソルは一口に云えば空色であるが、よく見ると群青ぐんじょうと、淡紅色ときいろの、ステキに派手なダンダラ模様であった。小倉縮こくらちぢみらしいハッキリした縞柄しまがらの下から、肉付きのいい手足と、薄赤いものを透きとおらして、左手にビーズ入りのキラキラ光るバッグをげて、白足袋たびに、表付きの中歯ちゅうばの下駄を穿いていたが、霖雨ながあめでぬかるむ青草まじりの畦道あぜみちを、綱渡りをするように、ユラユラと踊りながら急いで行くと、オールバックの下から見える、白い首すじと手足とが、逆光線を反射しながら、しなやかに伸びたり縮んだりする。その都度に、華やかな洋傘パラソル尖端さきが、大きい、小さいまるや弧を、くうに描いて行くのであった。

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